棣棠花(下)
豐島與志雄
(譯自青空文庫)
翻譯? 王志鎬
A女——田宮先生真冷酷啊。久子哪里也沒有什么長處,只是因為她對我很愛慕,所以對我置之不理也很可憐,直到對方厭倦我為止,我都放任不管。雖然她沒有明確地說,但她曾暗暗暗示過我。如果猜疑的話,不如說是我有意,不也能理解嗎?
A女――田宮さんてずいぶん冷酷なかたね。久子さんはどこといって取り柄はないが、ただ僕を慕っていてくれるから、突っ放すのも気の毒で、先方から倦きるまで、まあそっとしておいてやってるんです、とそんなことを、はっきりは仰言らないが、それとなくあたしに匂わせなすったことがあります。邪推をすれば、むしろあたしの方に気がおありなさるようにも、取れるじゃありませんか。
B男——如果你能依附田宮君的話,一定會遭遇不幸的。他在性格上不能愛一個人。即使愛,也只愛自己。而且,像你這樣,只是不顧一切固執,缺乏品味的人,和田宮君的關系是不能長久持續的。
B男――田宮君にくっついていられると、きっと不幸な目に逢いますよ。彼は性格的に、ひとを愛することは出來ません。もし愛するとしても、自分自身をしか愛しはしません。それに、あなたのように、ただ向う見ずで一徹なだけで、センスの乏しいひとは、田宮君との仲が長続きはしませんよ。
C女——田宮前幾天人的妻非常稱贊晴子。她又嫻靜又溫柔,真是個女人味十足的人。你見過晴子嗎?我不認識晴子,不過,她是別人的妻子吧。對一個子如此稱贊,怎么行呢?
C女――田宮さんはこないだ、晴子さんのことをたいへん譽めていらっしゃいましたよ。しとやかで、やさしくて、ほんとに女らしいひとですって。あなた、晴子さんにお逢いなすったことがありますか。あたしは晴子さんてかた存じませんけれど、でも、あのかたはひとの奧さんでしょう。ひとの奧さんを、あんなに譽めていいものでしょうか。
D女--我只有一件事責怪我。這是很久以前的事了,雖然只有一次,田宮先生吻了我。那時,田宮已經喝得很醉了,可是我卻因為內心的責備而煩惱了很長時間。我想,如果把這件事告訴你,你的心情會平靜下來,所以我決定羞愧地向你陳述。
D女――わたくし、ただ一つ心に咎めることがございます。もうだいぶ前のことで、たった一度でしたけれど、田宮さんからキスされました。その時、田宮さんはひどく酔っていらっしゃいましたけれど、それでもわたくしの方では、心に咎めて、長い間悩みました。そして、そのことをあなたにお打ち明けしたら、気が靜まるだろうと思いまして、恥をしのんで申上げることにしました。
E女——田宮先生,我以前就有交情,但他是個不好對付的人。總是游手好閑,是個無法捉摸的人。不管我說什么,都是馬耳東風嘛。和那樣的人打交道,你也會吃不消的吧。有一件事,抓住它的尾巴,把它緊緊地扎起來,這樣就可以了。
E女――田宮さんは、わたしは昔から懇意なんですが、始末のわるいひとでしてね。いつものらりくらりしていて、瓢簞鯰で、つかまえどころがありません。こちらから何を言っても、すべて馬耳東風ですからね。あんなひと相手では、あなたも気骨が折れることでしょう。ひとつ、尻尾をつかまえて、ぎゅーっと締め上げてやりなさるが、宜しいですよ。
F男--你可得小心啊。你認識一個叫田口的人吧。那個田口說。關于久子和田宮的事,她說,久子似乎有點色欲二道的意思。這豈不置若罔聞?或者,如果你從田宮那里得到了一些東西,或者零用錢之類的事情,那就另當別論了,那也并非如此吧。所以,一定要小心。
F男――あなたは用心なさらなければいけませんよ。田口というひとを御存じでしょう。あの田口が、言っていました。久子さんと田宮さんのことでは、久子さんの方に、どうも色慾二道の気味合いがあるようだと。これは聞き捨てならないじゃありませんか。それとも、あなたが田宮さんから、なにか品物を貰うとか小遣を貰うとか、そんなことが少しでもおありなさるなら、話はまた別ですが、そうでもないでしょう。だから、用心なさらなければいけません。
G女--我從某個地方聽說了田宮先生以前的事情,知道得很詳細。那是田宮先生和前夫人結婚的時候,聽說田宮先生是因為愛她妹妹才來的。不知道怎么回事,和姐姐結婚了。嘛,這在社會上是常有的事,就這樣又有了。太俗氣了。
G女――あたしは、田宮さんの昔のことを、或るところから聞いて、詳しく知っております。田宮さんが先の奧さんと結婚なさる時のことですが、ほんとは、田宮さんは妹さんの方を愛していらしたんですって。それが、どうしたことか、姉さんの方と結婚なすってしまいました。まあ世間にはよくあることですが、それだけにまた。ずいぶん俗っぽい話ですわ。
H女——久子,問你一件有趣的事吧?你收買了田宮和這個年輕的女傭人,讓他們做間諜。田宮那里偶爾也有女客人吧。那時候,不知道怎么回事,你讓女傭做間諜。我當然不會相信那種事,我也很了解你的脾氣。所以就這樣,當笑話。我不知道是從哪里傳出來的,這不是很有趣嗎?
H女――久子さん、面白いことを聞かしてあげましょうか。あなたが、田宮さんとこの若い女中を買収して、スパイをさせてるというんですよ。田宮さんとこには、たまに女のお客さんもあるでしょう。そんな時、どういう様子か、あなたが女中にスパイをさせてるんですって。あたしは勿論、そんなことを信じませんし、あなたの性質もよく知っています。だからこうして、笑い話にしているんですよ。どこからそんな噂が出たか知りませんが、ずいぶん面白い話じゃありませんか。
其他還有很多。即使把二十六個字母并列起來也不夠吧。不過,不是那么多人說的,一個人說了好幾句話。對于這一件件事,久子向田宮訴說哭了。 “我只是想清清楚楚、坦率地活著。可是,又責備你,又責備別人,簡直變成了歇斯底里的樣子,這讓我很難過。我越發討厭自己,討厭這個世界。我覺得一切都是污穢的。分手吧,為了純潔的愛情,分手吧。”
その他、まだまだ沢山あった。アルファベット二十六字を並べても足りなかったろう。もっとも、そんなに多くの人が言ったのではなく、一人で幾つものことを言った。その一つ一つのことについて、久子は田宮に訴えて泣いた。
「あたしはただ清らかに素直に生きたかったのです。それが、あなたを責めたり、他人を責めたり、まるでヒステリーみたいな様子になってしまった、そのことが悲しいんです。もうつくづく自分がいやになり、世の中がいやになりました。何もかも穢らわしいという感じです。お別れしましょう。清い愛情のために、お別れしましょう。」
田宮不知道該怎么說安慰他。同時,也不理解久子的心情是那么的緊張。當他看到她自殺未遂時,他感到震驚。由于她處在比較自由輕松的境遇中,綾子死后,她的家和田宮的家相依為命。服毒是在自家居室,為了津貼,他被抬進了不遠處的小醫院。 田宮趕到時,她正在側臥。他幾乎沒有呼吸,悄悄地靜了下來,臉失去了血色,像蠟一樣。枕邊還有她信賴的朋友百合子。
田宮はどう言って慰めてよいか分らなかった。また、久子の気持ちがさほど切羽つまったものだとも理解しなかった。そして彼女の自殺未遂に接して駭然とした。彼女はわりに自由な気楽な境涯にあったので、綾子の死後は、自宅と田宮の家とに半々ぐらいの生活をしていた。服毒は自宅の居室でしたが、手當のためにすぐ近くの小さな病院に擔ぎ込まれた。
田宮が駆けつけて行った時、彼女は橫向きに寢ていた。殆んど呼吸もしていないかのようにひそと靜まり、顔は血の気を失って蝋のようだった。枕頭には、彼女が信頼してる友の百合子が附き添っていた。
田宮不知道該怎么說安慰他。同時,也不理解久子的心情是那么的緊張。當他看到她自殺未遂時,他感到震驚。由于她處在比較自由輕松的境遇中,綾子死后,她的家和田宮的家相依為命。服毒是在自家居室,為了津貼,他被抬進了不遠處的小醫院。 田宮趕到時,她正在側臥。他幾乎沒有呼吸,悄悄地靜了下來,臉失去了血色,像蠟一樣。枕邊還有她信賴的朋友百合子。
彼女は暫く瞼を閉じたままだった。やがて、その長い睫毛がちらと動いた。それから靜かに眼が開いて、田宮の顔を見た。ただ無心に眺めてるような風だった。ふいに涙がはらりとこぼれて、眼はまた閉じた。田宮は手探りに彼女の手を執ったが、その手はだらりと任せられてるきりだった。何も言うことはなかった。
百合子にはまだ、事情がはっきり分っていなかった。
五日後、久子は退院して自宅で靜養することになった。
「暫く、考えさして下さい。あなたも考えておいて下さい。一週間ばかり、お目にかからないことに致しましょう。」
田宮坦率地接受了久子的請求,來到了這個深山中的丸沼溫泉。 沒什么好想的。為了不去想,我本想把一切都拋在腦后。我只感覺到,沒有久子的生活是毫無意義和空虛的。對于過去生活過得很荒唐的田宮來說,這段愛情的發現甚至有些意外。 他只想等待那個時刻,那個什么時候都不清楚的時刻。于是,他知道,單純的等待,與思死,是一紙相通的。只差一步,他就有可能自決。
久子のその申し出を田宮は素直に受け容れて、この山奧の丸沼溫泉に來た。
考えることは何もなかった。考えないために、すべてを頭の外に放り出しておきたかった。そしてただ感じたのは、久子のない生活というものが無意味空虛であるということだった。過去にずいぶんでたらめな生活をしてきた田宮にとっては、この愛情の発見がいささか意外でさえあった。
彼はその時を、何の時かもよく分らぬその時を、ただ待っていたい気持ちだった。そして、ただ待つということは、死を思うことと、紙一重で相通ずるものだと知った。ほんの一歩の差で、彼は自決しかねなかった。
然而,那些離中心不遠的瑣事,卻歷歷在目。小貓呀,綾子和山吹呀,婢們呀,還有其他的東西,都映在湖面的鏡子里。而今,湖面上,一片樹葉,翻來覆去地緩緩旋轉著,向湖心流去。方向不定的風吹來吹去,還有易變的旋渦。那棵樹葉很危險。我不知道什么時候會沉下去。那不正是久子的模樣嗎?也許他會被卷入塵世的漩渦而沉淪下去。 田宮離開了倚靠的樹干,快步離開了湖畔。湖心的眼睛不知為何感到害怕。
それにしても、中心からそれたつまらないことが、なんと鮮明に浮んできたことか、仔貓だとか、綾子と山吹だとか、老婢たちだとか、なおその他のいろんなものまで、湖面の鏡に映った。そして今、その湖面には、一枚の木の葉が、くるりくるりとゆるく回転しながら、湖心の方へ流されていた。方向の定まらぬ風の吹き廻し、そして気紛れな渦巻き。あの木の葉は危かった。いつ沈むか分らなかった。それがそっくり、久子の姿ではなかったか。俗世の渦巻きに巻き込まれて沈んでしまうかも知れなかった。
田宮は倚りかかっていた樹の幹から離れ、足早に湖畔を立ち去った。湖心の眼がなにかしら怖かった。
穿過酒店大門前的廣闊草原,就來到了清澈的山水潺潺流淌的溪流。在岸邊,有一棵大樹茂盛的檀(真由美)。她開了一大朵黃色和紫色的小花,也有已經結了果實的,還能看到紅色的果肉。田宮折下那最美的一枝,回到了房間。他叫來女傭,借了一個合適的花瓶,扔進了一個檀枝。 黃色和紫色兩種顏色的小花群,紅色的小果實,在小樹枝的橢圓形葉后望去,實在是太可愛了。田宮一動不動地想把自己的心情集中在那里。我只想要一些溫柔的情調,讓我的心不要暴躁,讓我的湖心眼不要暴躁。
ホテルの玄関前の広い草原を橫切って行くと、澄みきった山水がさらさらと流れてる渓流に出る。その岸のほとりに、檀(まゆみ)の大きな木が茂っていた。黃と紫とに染め分けた小さな花を一杯つけていたが、既に果実を結んでるのもあって、紅い果肉も見えていた。その最も美しそうな一枝を、田宮は折り取って、室に帰った。女中を呼んで、手頃な花瓶を借り、檀の枝を投げ入れた。
黃と紫との二色になってる小さな花の群れ、紅みの見える小さな果実、それを小枝の楕円形な葉裏に眺めると、如何にも可憐だった。田宮はそこにじっと気持ちを集めようとした。心が荒立たないように、湖心の眼が荒立たないように、何かのやさしい情緒がほしかった。
檀的花、果、葉都不枯萎,不褪色。但是,早晚看著它,漸漸看熟了,一點意思也沒有了。就在這時,百合子發來了電報,她把一切都托付給了她。 久子,身體和心靈都很健康。我回來了。 田宮站起來,盡情地伸展了一下。丸沼和菅沼都已經沒有遺憾了。也停止了對死亡的思念,只想拯救久子。綾子死了,但久子還活著。
檀の花も実も葉も、なかなか萎れず、艶が褪せなかった。でも、朝夕それを眺めてるうちに、次第に見馴れて、もう一向に面白くもなくなった。丁度その時、萬事を託しておいた百合子から電報が來た。
――久子、身モ心モ元気ニナッタ。スグニ帰ッテ來テ下サイ。
田宮は立ち上って、思いきり伸びをした。もう丸沼にも菅沼にも心殘りはなかった。死を思うことも止めにして、そしてただ、久子だけは救ってやりたかった。綾子は死んだが、久子は生きていた。
都說橖梨花之后,其實不結,田宮知道未必。至少在他院子里的山吹上,結了許多褐色的小果實。花也好,但我想盡可能成為結果的花。至少人事安排是這樣的。想到自家的花團錦簇要結果了,田宮有了底氣。那不是感傷。他立即索取旅館帳單,聽取旅行指南,調查歸途時間,寫給百合子的電報,然后收拾行李。
山吹の花のあと、実は結ばないと言われているが、必ずしもそうでないことを田宮は知っていた。少くとも彼の庭の山吹には、褐色の小さな実がいくらも結んだ。花だけでもよろしいけれど、なるべく実を結ぶ花でありたかった。せめて人事はそうでありたかった。自宅の山吹の花は実を結ぶことを思って、田宮は気力が出た。それは感傷ではなかった。彼は直ちにホテルの勘定書を求め、旅行案內をくって帰途の時間を調べ、百合子宛の電報を書き、そして荷物をまとめた。
(完)